高齢者の音楽療法〜音楽を活用することで生まれるコミュニケーション〜

「音楽療法」は、今では高齢者の施設で、というイメージが持たれているようですが、実はこの分野の音楽療法は比較的歴史が浅いのです。これは、高齢者は無気力で、新しいことは受け入れないという間違った思い込みが社会にあったためです。しかし、実際に音楽療法を実践、研究することで、その間違った思い込みが修正されてきました。たとえば、高齢者は鎮静的な音楽ばかりを好むと思われていましたが、それだけではなく、活動的な明るい曲などを非常に好むということがわかりました。また、聴くだけの受動的な音楽だけではなく、歌うこと、楽器を演奏すること、アンサンブルを行うことも好むということが判明しました。このような調査や実践の結果が、今日の「音楽療法」の形に大きな変化をもたらし、ただ聴くだけではなく、参加する音楽療法のスタイルを生み出しています。
 比較的健康な高齢者の場合、若い頃に楽器の経験がある人は、楽器に触れていない期間が長くても、音楽に再び携わることで昔のスキルを思い出すようになります。また、全く音楽を習ったことがない人でも、上手にステップを踏めば、高齢になっても楽器の習得は可能です。
 また、高齢になり、心理的、身体的に障害が重度化すると、家庭での介護が困難になり、施設などを利用せざるを得ない場合もでてきます。この様な場合でも、できるだけその人らしく充実した時間を過ごしていかなくてはいけません。音楽はそのような方たちの生の質(QOL)の向上に寄与できる大きな可能性をもっています。
 たとえば、痴呆を持つ方にとって、音楽療法は、非常に有効なアプローチになります。痴呆は症状が進んでくると、言葉を使ったコミュニケーションが難しくなり、会話が成り立ちにくくなってきます。しかし、コミュニケーションがうまく取れなくても、歌なら歌える場合がありますし、懐かしい曲がきっかけとなり、日常や現実に根ざした適切な会話が一時的にせよ可能な場合があります。少人数のグループで音楽療法を実施する場合、音楽療法士といつものメンバーが、同じ時間、同じ場所で、なじみのある音楽を共有するという枠組みがはっきりしています。混乱の少ない、安心できる環境が整えられるため、痴呆の方も、考えをまとめ、安心して自分を表現することができるのではないかと考えられます。痴呆の方は、複雑な状況や起こっていることの脈絡を理解することは苦手です。したがって、わかりやすい環境の下で活動する時間を持つことは、情緒の安定のためにも、とても重要です。



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