これまでに述べたような慢性疼痛には、個人の心の問題が大きく関わる痛みである「心理的疼痛」の要素が大きな比率を占めています。そして、この心理的疼痛で大切なことは、うつ病に伴う痛みというものがあることです。
慢性的な痛みから全身の不定愁訴が生じ、精神的にも落ち込んでくると、うつ病を伴うようになってしまいます。うつ病になると、痛みに対する感受性が高まり、痛みの感じ方がいっそう強くなります。うつ病の症状に「気分低下」「意欲低下」「気持ちの落ち込み」などがありますが、表向きにはそのような精神症状を見せないため、発見が遅れてしまいがちです。しかし、早期にうつ病に気付かないと、痛みの治療にもつながりにくく、慢性的な痛みにつながってしまいます。
痛みの治療にしばしば薬が使用されますが、なかでも抗うつ薬が効果的な場合があります。抗うつ薬が痛みに効くということは、うつ病が改善されたからではないかと思われがちですが、抗うつ作用は、抗うつ薬を使っても2、3日で効果が出るものではなく、早くても1週間から10日程経たないと発揮されません。しかし、抗うつ薬を痛みの治療に使用した場合、2、3日で効果が得られています。この結果、抗うつ薬の中には、抗うつ効果とは独立して作用する力、すなわち下向性、遠心性の疼痛抑制系を刺激し、痛みを直接コントロールする力があるということがわかります。
抗うつ薬の多くは、セロトニンやノルアドレナリンが作用する疼痛抑制系によく働くことがわかっています。その結果、痛みをコントロールするだけではなく、不眠や食欲不振、やる気が出ないなど、うつの症状にも効果的に作用し、痛みだけではなく全体が改善されることにもつながります。
抗うつ薬は腰痛、年をとって関節が腫れたり、こわばったりする骨関節症、関節リウマチ、線維筋痛症など、慢性的な痛みや心因性の痛み、ノイローゼによる痛みなどに対して鎮痛効果があり、抗うつ効果とは独立して痛みに効きます。抗うつ薬が痛みに効く薬であることは、多くの論文でも取り上げられており、EBM(エビデンスベースドメディスン=証拠に基づいた医療)のレベルで認められています。
具体的に痛みに用いられる薬の種類としては、古くからある三環系の抗うつ薬アナフラニール、トフラニールや比較的新しい抗うつ薬のSSRI(パキシル、ルボックス、デプロメール)、SNRI(トレドミン)といったものが使われています。また、筋肉の痙攣はストレスでよく起こり、痛みにも関係しますから、筋肉をほぐす筋弛緩薬なども使用され、強い筋肉のこりや緊張から痙攣を起こしたりする場合には、抗痙攣薬(リポトリール、ランドセン、テグレトールなど)も使われます。この他、漢方の芍薬甘草湯や疎経活血湯なども肩のこりや腰痛を軽くしてくれます。