最近鳥のインフルエンザが非常に注目されています。野鳥は多くの鳥インフルエンザに感染しますが、ウイルスが増える場所はヒトのように呼吸器ではなく、腸管が中心となります。そして、ほとんどの場合発病しません。鳥インフルエンザウイルスのうち、A型のH5あるいはH7に分類されるものは、特にニワトリやアヒルなどの家禽類に対して病原性の強いことが多く、これらを高病原性鳥ンフルエンザとよんでいます。
インフルエンザウイルスは、渡り鳥によって世界各地の運ばれているのであろうと考えられています。しかし、そのウイルスはすぐに他の動物に感染する、というわけではありません。そこには「種の壁」があります。
インフルエンザウイルスの構造には「HAタンパク」という鍵のような役割の物があります。この鍵の構造が動物によって少しずつ違うため、鳥のインフルエンザウイルスがすぐに多くの動物に感染を広げているわけではありません。そのため、通常は鳥のインフルエンザウイルスは、鳥同士だけで感染し、人にくることはありません。しかし、インフルエンザウイルスの遺伝子は常に変異を繰り返しており、丁度この鍵(レセプター)を規定する部分に変異が生ずると、種の壁を越えて感染が生じ、さらにその動物種の中で流行が拡大することが考えられています。これがヒトの場合、ヒトにとっての新型インフルエンザの登場、ということになります。
H5N1型のインフルエンザが養鶏場などで発生すると、鶏あるいはアヒルなどの家禽類がバタバタと死んでしまいます。以前より「家禽ペスト」という名称で、畜産関係者には恐れられてたものです。このH5N1型のインフルエンザウイルスは、鳥型のインフルエンザウイルスであるため、ヒトにはうつらないと信じられてきましたが、1997年、香港およびその周辺で家禽類の間で大流行し、この時に18名の鳥インフルエンザウイルス感染患者が見付かり、6名が亡くなっています。初めて鳥インフルエンザH5N1の直接ヒトへの感染例の出現です。本来、鳥インフルエンザは人にうつらないものですが、どんなに違う鍵と鍵穴であっても偶然開いてしまうことがあるように、非常に多くのニワトリが鳥インフルエンザに罹ると、ヒトが感染してしまうケースもあるということが分かりました。この時、ヒトに感染をした鳥インフルエンザウイルスH5N1の遺伝子を全て確認したところ、鳥型のままでありヒトにうつりやすいインフルエンザウイルスには変化していなかったため、多くの人が罹るものではない、と結論づけられました。しかし、このような状態を放っておくと遺伝子が変異し、些細な変化からヒトにうつりやすいウイルスに変化することもあります。そのため、香港政府は、香港中の家禽類をほぼすべて殺処分し、鶏などでの感染の拡がりを抑え、ヒトへの新たなウイルスの発現の可能性を断ちました。
これまでのところ鳥インフルエンザウイルスのヒト感染は、死んでいるあるいは病気のニワトリやアヒルに直接あるいは至近距離での接触で生じており、元気に飛んでいる鳥やニワトリを見て感染するようなことはありません。また野鳥からの直接感染の報告もありません。学校のニワトリは危険であるから全部処分しようとしたり、バードウォッチングを止めるといった心配は今のところありません。アジアではニワトリやアヒルを野飼し、それをマーケットで鳥ごと売っている食文化習慣があり、一般のヒトが感染を受けやすい状況にありますが、この辺はわが国と大いに違うところです。